【資料ー1】ー埼高教第60回定期大会付属資料ー

           (第1次報告)
 
                         2001,5,12 埼高教教文部小規模校対策会議
 
1.経過
 3月、県教委は「21世紀いきいきハイスクール推進計画」を発表し、2013年度までに全日制高校を15〜20校「再編整備」(=統廃合)する数値目標を示した。そして、「再編整備」対象校の条件として「生徒募集が困難な高校」などをあげている。一方、学校の活力を維持するためには一定の学校規模が必要であると小規模校を「再編整備」対象校とする考えも示している。このような学校は「困難校」を意味していることは明らかなことであり、埼高教はこのような事態を重視し、問題の所在と打開策を検討するために、学年5学級以下の高校を対象にした小規模校対策会議を開催して検討してきた。その議論のなかで、いくつかの小規模校を中心に「小規模校の実態と課題」を明らかにするとりくみを4回にわたる対策会議を開催してすすめてきた。
 本報告は、困難な状況の下でも必死になって教育活動をすすめている小規模校(≒「困難校」)を統廃合させるのではなく、どのような支援が必要なのかを埼高教全体での共通理解を得るために「小規模校の実態と課題」としてまとめたものである。
 
2.生徒の実態
 
(1)学習面
 @「九九」が全部いえない、「ABC」が最後まで書けない、基礎的な漢字が書けないなど、基礎  学力が不十分な生徒が少なからず存在する。


 

A高の場合:入試での「学習の記録」が9(オール1)の生徒が入学者の16%
 
 A国語・数学・英語で少人数授業を実施することによって、学期の進行とともに諸テストの平均点  が上がっているなどの効果があるものの、それでも成績不振者は少なくない。


 

A高の場合:1年次成績不振者(欠点)は在籍者の12%
 
 
(2)生活面
 @不登校傾向にある生徒が入学してくる。


 

A高の場合:中学校3年間の欠席が100日以上の生徒が入学者の12%
 
 A問題行動を起こす生徒が多い。年度によっては粗暴な生徒が数多く、「暴力」「いじめ」などの  事件が頻発する。



 

A高の場合:指導措置を受けた生徒が在籍者の24%(延べ人数では43%)で、「暴力」
      「いじめ」が指導措置全体の30%を越えている。
 
 B人間関係をつくれない生徒が多く、寡黙や全く落ち着きのない生徒も少なくない。
 C経済面を含め、家庭的に恵まれない生徒が多い。




 

A高の場合:授業料減免者が在籍者の11%。ただし、手続きをとれない、また手続きを
      とることを面倒くさがる親もいるので、授業料減免を希望している者はそれ
      以上である。
 
 
(3)その他
 @高校入学への目的意識が希薄で、周囲に説得されて入学してくる生徒がいる。
 A精神的に不安定で、特別な教育的ニーズを必要とする生徒がいる。
3.小規模校の利点
 
(1)すべての教職員と生徒が互いに顔と名前がほぼ一致し、一人ひとりの生徒に声をかけ、コミュ  ニケーションを図ることができる。
 
(2)家庭的な雰囲気になるので、生徒との心の交流を深めやすい。
 
(3)入学時「学力」が低かった生徒が、学ぶ楽しさ・喜びを知り、大学に進学していくケースも少  なくない。また、中学校時代不登校だった生徒が、部活動などに「居場所」を見つけることによ  って頑張っているケースもある。
 
(4)卒業までたどり着いた生徒は、特に対人関係など人間的に大きく成長している。そして、成長  した自分に誇りを持ち、母校に対しても愛着を覚えるようになる。
 
(5)初めて生徒会・HR役員などを体験することによって、自分に自信を持ち、学校生活に前向き  にとりくむようになる。
 
(6)少人数だからこそ、生徒一人ひとりの状況に応じたきめの細かい進路指導(実質的な個別指導)  が可能になる。
 
4.課題と対策
 
(1)生徒募集困難及び高校中退の原因
 @生徒募集困難及び高校中退の最大の原因は「新学力観」と高校間格差である。学校現場の反対を  押し切った「できない」ことも個性とする「新学力観」の導入により学力保障が放棄され、より  多くの「低学力」が生みだされている。高校間格差の下では、そのような「学力」に基づき、限  定された高校の選択を余儀なくされている。
 A「学力」による振り分けは、生徒数の減少とも相まって、地元中学からの入学者を減少させ、そ  れが募集困難を助長させている。また、地元中学からの入学者が減っている分、遠距離からの入  学者が増加し、そのことが中退の一つの原因にもなっている。
 B小規模校に入学する生徒の多くは、すでに入学の時点から学習面・生活面での困難を抱えている。  困難を克服する者も勿論いるが、やはり中退していく生徒が多い。




 

A高の場合:入学時の「学習の記録」が9(オール1)の生徒のうち60%が中退している。
      中学3年間の欠席が100日以上の生徒のうち、67%の生徒が中退している。
      指導措置を受けた生徒のうち、68%の生徒が中退している。
 
 
(2)小規模校の実態を克服する課題と対策
 @確かな学力を保障する。
   生徒がわかる喜び・楽しさを実感し、学習に前向きにとりくめるようにする。そのためには、  次の施策が喫緊事である。
    ◆先行的に30人以下学級を実施する。
    ◆教職員加配を行い、少人数授業の拡充を図る。
    ◆当面、少人数学級展開をすすめるとともに、「つまみ」(学年進行学級減)はやめる。
    ◆学区を縮小し、普通科は一学区10校以下とし、高校間格差の解消をめざす。
 A生徒がいきいきと輝き、地域に信頼される学校にする。
   生徒一人ひとりの思いを受けとめ、生徒とのコミュニケーションを積極的に図ることにより、  生徒と教師の信頼関係を築いていく。そして、生徒一人ひとりが友人とともに活躍できる場を多  様に保障する。また、地域住民から支持され、地元中学から信頼されるような学校づくりをすす  める。そのために、以下のようなとりくみが求められている。
    ◆生徒参加、父母・地域との共同をめざした学校協議会または3者協議会の設置。
    ◆地元中学校との日常的な連携。
    ◆学校予算の増額。学校カウンセラーの配置など
    ◆進路保障(例えば、県立大学指定校枠や地元公共機関への求人確保など)。